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小河淌水 抄録

以前に編曲した「小河淌水 アルトサクソフォンとハープのための」に於ける要素展開について拙文を附すことにした。あくまでも私なりの愚見であり、それ以上の価値はないものではあるが、拙作に込めた意図が多少なり伝われば幸いである。


譜例1〜2は参考楽譜、譜例3〜5はアレンジ譜。

譜例1 小楽節 a

m3-M2上行型/2度下降/シンコペーション

※ト音記号、c moll


譜例2 小楽節 b

中心音を基軸にしたライン m3,M2/シンコペーション

拙作では譜例1,2で示された各動機の小楽節aの音程関係m3,M2を調関係まで拡張し、Am - Cm - Dm へと転調するように設定した。[譜例3.1〜3.3]


譜例3.1 Am (Alto Saxophone in E♭)

3.2 Cm (Harp)


3.3 Dm (Harp)

このように動機の微視的な音程関係から楽曲全体に亘るマクロな音程遷移である調設定へと拡張せしめることにより、統一性の向上が期待できる。 小河淌水の歌詞は、河の風情から自然をただ讃えるという内容ではないようだ。むしろ恋人との離別により悲嘆に打ちひしがれる女性が、月や山といった雄大な自然に慰められる、といった抒情的性格を帯びている。そのことから拙作の主役たるサクソフォンには、空転する行き場の無い哀惜の念を表するために装飾的な副旋律を用意した。[譜例4]

譜例4

作中、随所に現れるハープの同型反復は、病理的強迫と河のせせらぎとを掛けて模しており、54小節目から終止にかけて、差し迫る反復強迫-河のせせらぎをハープのlow D - Près de la table(サウンドボードの付近で弾く奏法)に託し、締め括っている。[譜例5]


譜例5




先の装飾的副旋律について改めて言及する。ある程度、音楽的知識を持つ者からしてみれば"そこまでしなくても成り立つ過度な装飾"に映るのかもわからない。無論、和声的骨格に配慮し対話的オブリガートや線的なリズムパターンなど、様々なアプローチが選択肢として考え得るだろう。

一方で私としては、修辞的誇張の一種としてサクソフォンの副旋律を位置付けることで、空疎な高揚感を演出したかったのであり、職人的作曲技巧を是とするイデオロギーに与したかった訳ではない。空疎な高揚感と言ってもネガティブな意味ではなく、ある類推に導くための一つの手段に他ならない。その類推で何を導出したいかと言うと、"かのように"見せること、仮言的な射程を得ることである。

知識や意図を存在させるためには、何らかの論理空間が要請される。パフォーマティブな構造によって、意図する効果が担保され、あたかも実体が有るかの様に現象するものと考えている。理念的な内容になるので詳述は控えるが、端的に言えばその様に作曲行為を認識している。

さて、私はこのページをコンテンツの宣伝、また備忘録や随想録のような位置づけで同定している。そのため、仮に十全な説明が読者から要求されたとしても、満足させられるような対応は期待できないであろうことは文末に付しておきたい。

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